ケーキの切れない

「ケーキの切れない非行少年たち」 宮口幸治 新潮新書


この本は著者が医療少年院で勤務した経験から書かれています。


この本には少年たちは見る力、聞く力、見えないものを想像する力がとても弱く、そのせいで勉強が苦手というだけでなく、話を聞き間違えたり、周りの状況が読めなくて対人関係で失敗したり、イジメにあったりしている。そして、それが非行の原因にもなっていると書かれています。

本のなかでは、非行少年の特徴が挙げられています。

1 見たり聞いたり想像する力が弱い

2 感情をコントロールするのが苦手。すぐにキレる

3 何でも思いつきでやってしまう。予想外のことに弱い

4 自分の問題点が分からない。自信があり過ぎる、なさ過ぎる

5 人とのコミュニケーションが苦手

6 力加減ができない、身体の使い方が不器用

という以上のような特徴です。


 それから非行を犯した少年たちの生育歴を調べると、小学2年くらいから勉強についていけなくなるそうです。友だちからバカにされたり、イジメにあったり、先生から不真面目だと思われたり。家庭内では虐待を受けていたりもします。障害があることに気がつかずにすぎていくのです。こういった子どもたちを作らないためには、早期発見と支援が必要だそうです。

 支援の方法としてソーシャルスキルレーニングがよくいわれています。これは認知行動療法に基づいているそうです。認知行動療法は、考え方を変えることによって不適切な行動を適切な行動に変えていく方法です。これは考え方を変えるため、ある程度考える力があることが前提です。対象者の認知機能に何か問題があれば、トレーニングをうけても理解できないということが生じて効果が定かではなくなるとも書かれていました。

 また現在学校での支援の仕方は、いいところを褒める。自信をつけさせるというスタイルが多いです。苦手なことをさせると自信をなくすので得意なところを見つけて伸ばしてあげるということです。しかし著者は苦手なことをそれ以上させないのは恐ろしいことだと言っています。子どもの伸びる可能性をきちんと見極めていないと、子どものもつ可能性を潰してしまうことにもなり兼ねないからです。褒める、話を聞いてあげるは、その場を繕うのにはいいですが、長い目でみた場合、根本的解決策ではないので逆に子どもの問題を先送りにしているだけになってしまうそうです。

そして「自尊感情が低い」ということが問題とされますが、低いことが問題なのではないと述べられています。自尊感情が実情と乖離していることが問題だということです。何もできないのに自信を持っている。逆に何でもできるのに自信が持てない。等身大の自分をわかってないことが課題なのです。自尊感情は、無理に上げる必要もなく、低いままでもいい、ありのままの現実の自分を受け入れていく強さが大切だと書かれています。

 


では問題を解決するためにどうすればよいのか。

著者によると自分が変わるためには、自己への気づきがあること。様々な体験や教育を受ける中で、自己評価が向上することの二つがあげられています。

そして子どもの支援としては、社会面、学習面(認知面)、身体面の三方向の支援が必要です。認知機能のトレーニング(コグトレ)が治療に有効だということです。

 


この本を読んで、新しい視点を得ることができました。支援が必要な子どもたちを「忘れられた存在」にしないために努力が必要だと思いました。具体的なトレーニングの方法が紹介されていたので、実践していくことができればと思います。